日本の宇宙開発について著者の経験を元にまとめられている一冊です。
著者である的川氏は、東京大学に入学後「日本の宇宙開発の父」と呼ばれている糸川英夫先生の研究室に入り、
日々研究に励み、現在はJAXA(宇宙航空研究開発機構)の名誉教授を務めています。
また、この本は主にロケットや人工衛星などの無人探査のプロジェクトを中心に書かれています。
有人宇宙開発の内容はあまり触れられていないため、有人宇宙開発の詳しいことを知りたい方にとっては本書では物足りないかもしれません。
それでも日本のロケット開発や衛星開発について、当時のエピソードも交えながら書かれており、
当時の日本のエンジニアがいかにして宇宙開発に挑んだかがわかる内容となっています。
日本のロケット開発の始まり
日本の宇宙開発の始まりは1950年代に糸川先生を中心に東大が立ち上げたプロジェクト「AVSA(Avionics and Supersonic Aerodynamics : 航空電子工学および超音速空気力学)研究会」からだと言われています。
実際には戦前にも固体、液体燃料のロケット開発は開発されており、ドイツに継ぐ世界第二位の技術水準を持っていたそうですが、戦争が終わるころにそれらに関わる資料は処分されたようです。
AVSAプロジェクトは具体的には、20分で太平洋を横断するロケット旅客機を作ることが提案されました。ただし、その加速度では乗っている人間が潰れてしまうので、実際には加速度を抑えて2~3時間で横断するロケットを目指していたようです。
でも、いきなりこんなロケットを作れるはずがないので、まずは長さ23cmの「ペンシルロケット」と呼ばれる実験用のロケットから開発がスタートしました。
宇宙開発や宇宙工学が好きな人はこの「ペンシルロケット」は馴染みのある単語かもしれませんね。
しかし、当時の日本の技術力はロケットだけではなく、ロケットの位置や速度を追尾するレーダーの技術もまだまだでした。
そこで、糸川先生の斬新的なアイディアによってこのペンシルロケットは垂直方向ではなく、水平方向に打ち出すということになりました。
ロケットを水平方向に発射するなんてすごいアイディアですよね。。
当時の研究メンバーもそのアイディアを聞いたときはかなり困惑したと本にも書かれています。
水平に打ち出されたロケットは、等間隔で置かれた吸い取り紙突き抜けながら最後に砂場に突き当たって止まる仕組みでした。
また、吸い取り紙には細い針金が張り巡らされていて、ロケットが通ったら針金が切れて、電気的に計測できる仕組みでした。
この仕組みによってレーダーは必要がなくなったというわけです。
糸川先生の口癖
著者である的川氏は糸川先生の下で研究をされていただけあって、当時の糸川先生の研究に対する姿勢や人柄が随所に書かれています。
その中でも私にとって最も印象的だったのが、糸川先生の口癖(名言)である「金がないなら頭を使え」でした。
当時のロケット開発には予算がほとんどなかったため、研究をする上で良い条件ではありませんでした。しかし、アイディア一つで不可能を可能にすることはできる、そういった信念を持った方だったようです。
私はエンジニアとしてこの考え方は極めて重要でかつ大事だとは思いますが、
だからといって技術的な革新にはアイディアさえあればどうにでもなるとは思いません。
やはり資金(お金)が無いよりはあることに越したことはないですし、
世界で競争していくには良い人材を獲得したり、性能の良い装置などが必要になってきます。とは言え、今後の日本の宇宙開発予算もアメリカレベルになるかというと、それもあり得ない話だと思います。
著者も本の中で良い成果を出すためにはお金が無くても良いということではないと断りを入れています。
そこらへんのバランス間隔を持った研究者や技術者が今後の日本に更に必要になってくるのではないかと思います。
日本の町工場の技術力
最近はテレビなどでも日本の町工場の凄さみたいな特集をやっていますが、
この本の中ではそれだけでなく、町工場の独自のネットワークのすごさについても書かれていました。
どういうことかというと、例えばある町工場に「この部品を作ってくれないか」と尋ねたところ、その工場では出来ないとなっても、「墨田区のあいつらならできるかもしれない」と言って、紹介してくれたそうです。
私は技術力もそうですが、むしろこの独自ネットワークが日本の町工場の一番凄いところなのではと感じました。こういう情報ってインターネットではまず出てこないですよね。
しかも、自分が出来なくても出来る人を紹介してくれる、当たり前のようですがすごいことだと思います。
こういった日本の町工場は絶対に無くしてはいけないですね。
日本の技術力の根幹だと感じました。
最後に
私はこの本を読んで、改めて宇宙開発の魅力を感じました。
普段は注目されないエンジニア達が宇宙に挑むそのストーリーは、一人ひとり映画出来るのではないかと思うくらいです(笑)。
この本の中で「はやぶさ」プロジェクトについても書かれていますが、
恥ずかしながら私は読みながら少し涙してしまいそうになってしまいました。
それだけエンジニア達の努力や諦めない姿勢が本を読んでいて伝わってきたからです。
宇宙開発を中心に書かれていますが、普段私たちが仕事をする上で忘れがちな重要なことに気付かせてくれる一冊です。