佐藤靖『NASA 宇宙開発の60年』(中公新書)

宇宙開発
宇宙に興味が無い人でも人生で一度は「NASA」という単語を聞いたことがあると思います。
映画でもよく登場しますし、綺麗な天体画像にも[NASA提供]と書かれているのを目にする人も多いかと思います。
でも、結局のところNASAはどんな組織なのか正確に知っている人は少ないのではないでしょうか?

目次

この書籍を一言で言うと

この本は、NASAの発足前から発足するにあたってどういった歴史的経緯があり、
そして宇宙開発が政治とどのような関係で発展しきたのかが書かれている一冊です。

NASA発足前

「NASA」と聞くと、大抵の人は宇宙開発のスーパーエリート集団というイメージを持っていると思います。
でも、NASAの設立前も米国では既に宇宙開発における研究・技術開発が行われていました。
特にミサイルやロケット開発です。
実は米国は1920年代には既にロケット開発が行われていました。
そのパイオニアがクラーク大学の教授、ロバート・ゴダードです。
NASAが詳しい人ならご存知かもしれませんが、ゴダード宇宙センターの名前の由来になった人です。
でも、彼の研究が米国で評価されてきたのは残念ながら亡くなってからでした。
ゴダード以外にもたくさんミサイルやロケット開発を進めてきた技術者はいましたが、
時代が時代ですから、もちろん純粋な科学というよりは戦争のための開発という色が強かったです。
そのため、こういった研究を資金面で支えてきたのは、主に陸海空軍でした。
もっとも、研究者や技術者の多くは兵器を作りたかったのではなく、純粋に宇宙開発のためだったと私は信じています。

「NASA」の誕生

1950年代末、米国と旧ソ連は冷戦真っ只中でした。
その中で最も有名なのが、宇宙開発競争だと思います。
当時、米国と旧ソ連はどちらが最初に人工衛星が打上げられるか競い合っていました。
結果的に、1957年10月4日、旧ソ連が世界初となる人工衛星「スプートニク1号」の打上に成功します。
ちなみに、この人工衛星が発する電波信号は世界各地で受信されたようです。
米国も1958年1月31日、エクスプローラー1号の打上に成功しました。
そして1958年10月1日に米国はスプートニク・ショックへの対応として、宇宙開発を担う機関NASAの設立を決定しました。

NASAと政治や世論との関わり

NASAは設立後も常に政治や世論との間において、組織としての最適解を出してきました。
特に冷戦終結後、世論は宇宙開発に対して冷淡になってきました。
それはNASAの全体の予算規模からも垣間見ることができます。
NASAの全体の予算規模は、1966年をピークに現象の一途をたどり、その後の5年間で約4割減少しています。
当時の米国にとって、アポロ計画によって技術的(軍事的)な優位性が十分に世界に示され、
その必要性そのものが弱くなってきたからです。
同時により現実的な問題(人種問題や貧困問題)に関心が集まっていました。
その中で、NASAは生き残りをかけて、新しい計画を提案し、米国政府内部そして世論に対して
そのメリットを訴えていかなればなりませんでした。
スペースシャトル計画や国際宇宙ステーション計画はそういった状態の中において、
宇宙開発の次なる計画として提案され、今日に至ります。

最後に

いかがでしたでしょうか。
この本の中では、アポロ計画、スペースシャトル計画、国際宇宙ステーション、そして無人探査と、
各時代の中でNASAもどのように変化していったのかがわかります。
宇宙開発の歴史的背景を学び、さらには今後の宇宙開発はどうあるべきかを考えさせられる良い一冊だと思います。
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